二人は踊る、されど進まず 4







「もう一度このところから!」

「リナ、もういいだろ。今日はこのぐらいにしておけよ」

「やだっ。せっかくちょっとできたんだからもう少しだけ付き合ってよ!」

 しぶしぶリナの手を取り、ガウリイはリナを誘導するように引き寄せて互いの足を交差させた。リナが頭を振って後ろへ流したポニーテールが、軽やかに跳ねる。
 そうテンポの早い曲でもないが、アメリアの部屋から自室に練習場所を変えてもリナは延々と踊り続けているので、いい加減心配になる。練習に没頭する様は魔道書を夢中になって読んでいる時と同じで、彼女の途切れない集中力にガウリイは舌を巻いた。

 リズム感はいい。運動神経もいいので動きは軽やかだし、振り付けも次第に覚えてきた。
 あとは――表現?

 ガウリイとて踊れるといってもプロではないし、どこをどうアドバイスすればリナが上手くなれるのか、よくわからないでいる。
 ふとリナに視線を下ろすと、汗が首筋を伝い落ちるのが見えた。こんなに首が細かったのか、と思いながら、努力を努力とも思わずに練習し続ける彼女の腰を取った。

 一瞬ぴたりと体を合わせた後にリナからぱっと離れていく。
 残されるのはその片手だけ。
 伸ばした手と手を繋いでいると、不意にリナががくりと膝からバランスを崩した。

「きゃっ……」

 咄嗟に腰を攫って傾ぐ体をふわりと支える。
 やはり、もうだいぶ疲れているようだ。

「ほら、もういいだろ。明日の練習に響く。
 また明日頑張ろう?」

「うー……」

 ガウリイはリナをベッドに座らせて、頭からタオルを被せた。そのままわしゃわしゃと撫でてやる。

「むーっ!」

「しっかり疲れを取らないと」

「だって、もう日がないのよ!
 あたしが足手まといだなんて我慢できないわ」

「リナの気持ちはわかるけど、ここで根詰めすぎて足腰立たなくなったら意味ないだろうが」

「……うん。わかってる……」

 頷くリナを見て、ガウリイはドアへと向かう。

「部屋に帰るの?」

「いや。そのままちょっと待ってろ」

 数分して戻ったガウリイは手に湯を張った桶を持っていた。膝を付いて床に置くと、やおらリナの足を取って両方の靴を脱がす。

「なっなにすんの!?」

「あー、やっぱりこんな赤くなって。慣れない靴で長時間踊るから」

 リナの小さな足先はあちこち赤く擦れていた。
 治癒をかけながら練習していたのだが、足先にかかる負担はガウリイに見破られていた。
 ぱしゃぱしゃと程よい温度の湯が足にかけられて、リナは身を竦めるように足先に力をこめる。

「だ、大丈夫よ! 治癒をかければすぐによくなるし……」

「そんなんじゃなくて」

 湯をかけながら、ガウリイの大きな手がぎゅっとリナの足を掴む。骨の形まで探るように、ゆっくりと強く揉み込まれた。

「怪我は治しきれても、ほぐしとかないと疲れが残るぞ」

「つう……」

「あっ、痛かったか!? すまん!」

「んー、大丈夫。ちょっとしみただけ」

「そうか……ほら、片方も」

「うん……」

 ぎゅっと揉みほぐした後に、大きな手でマッサージが続けられる。湯水の、とろとろと流れる温度と彼のやさしい手の心地よさにリナは目を細めた。
 明日も、きっと頑張れる。













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