二人は踊る、されど進まず 3







「いち・にー・さん・しー、いち・にーっ、リナさんターンですーっ!」

「いてっ」

「……あ」

 二人の動きがぴたりと止まる。ガウリイの足の上にはリナの足が、ある意味器用に乗っていた。ぎゅむっとリナが踏んだまま止まっているわけだが。

「……ふう……リナさんガウリイさん、ちょっと休憩しましょうか」

「そもそもねえ、あんなステップを一日で覚えろってのがムリなのよ!」

 宣言した昨日の勢いはどこへやら、リナはもう弱音を吐いていた。姿勢やステップの基礎、一日では到底覚えられない振り付けをアメリアにあれやこれやと詰め込まれ、万能と自称して憚らないリナにも限界というものがある。

「でもガウリイさんは振り付けをもうぜんぶ覚えてますよ?」

「ガウリイは体力馬鹿で記憶容量が脳みそでなくて脊髄にあるから覚えられるの!」

「ひでえ……」

 椅子に座り、リナはヒールを履いた足をぷらぷらとさせた。
 形のよい靴はリナの小さな足をぴったりと包み込み、足元を女の子らしく見せているが、今のところガウリイの足を踏む役割ばかりだ。

「ぜんぜん先に進めませんね……」

「これでもだいぶ進歩したほうだろ。
 アメリアがいなかったら、オレは今頃どうなっていたか……」

「手を取るだけで大騒ぎでしたもんねえ」

 最初に手を重ねるだけでガウリイは雷撃を三度くらった。
 次にリナの腰を引き寄せる動きで五回ふっとばされた。
 ぼろぼろのずたぼろになりつつ、毎度アメリアの回復呪文を受け、なんとか形ばかりポージングをしてステップを合わせ、「いちにーさんしー」をするだけで初日は終わったのだ。ガウリイにとって間違いなく体力勝負であった。

 でもたったそれだけでもリナは顔を真っ赤にして、動きはギクシャクと硬くて。あまりの緊張っぷりに噴き出してしまいそうだったが、彼女のプライドを思いガウリイはからかうのをぐっとこらえていた。ここで茶化したら、何日経ってもダンスを最後まで踊りきることはできないだろう。

「なんでこんな難しい踊りなのよっ!」

「うーん、もっと初心者向けのダンスもあるんですが……今年の種目はルンバと決まってるんです……」

 三年に一度開催されるという舞踏大会は毎回テーマが決められている。大広間に紳士淑女が集って一斉に踊りを披露するため、その一曲を練習するしかないのだ。
 リナはがくりと項垂れる。ガウリイがその頭をぽふぽふと撫でて慰めていた。

「じゃあ、もう一度練習しますか」

 アメリアが練習のために準備したメモリーオーブに触れる。音楽だけを記録させたもので、起動させて数秒後に曲が始まるようにしている。
 ガウリイは立ち上がったリナと手を重ね、その腰にそっと手を添えた。一瞬、びくりとするリナにガウリイも身構えながら緊張したが、呪文は唱えてないようだ。
 やがてメモリーオーブは異国の舞曲を奏で始める。

「最初のステップですーっ! いち・にー・さ……」

ぎゅむっ

「いてっ」

「ごめ……」

 はああ、と三人の揃った溜息が部屋に響いた。
 メモリーオーブだけが、何事もなかったかのように曲を奏で続けている。













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