リメインズレイダー 13

「――ひええっ!? こんなに救援に来てたの!?」
 転送ゲートでドーム状の洞窟に戻ってきてすぐ、目に入ったのは―組織のメンバーたちと、ぐねぐねと地面を這う大量のケーブル類、解析のためのPC、発電機など大量の機材だった。
 ……救援というよりは、もはや調査隊?

「よう、リナ。今回発見したお宝はその男か?」
 ゼルガディス――彼はキメラとなってしまった自分の体を元に戻す情報を求め、組織に入ったメンバーだ。他の仕事にあたっていたはずだけど、姉ちゃんの業務命令を受けたのだろう。
「お宝って……違っ! こいつは、別に!」
「どーも。リナの守護者です」
 ガウリイが律儀に変な挨拶をしている。
「守護者? お前はまた……面白いものを見つけてくるもんだな」
 ゼルは呆気にとられながらも笑う。
 そして、設置されている大きめのモニターを指さした。
「あのお嬢ちゃんをオンラインにしたのもリナだろ?」
「へ?」
 転送ゲートに入る直前に「じゃあね」と別れの言葉を交わしたはずのアメリアが、モニターにちゃっかり映っていた。ブイサインまでしている。
「あの子が遺跡のデータをどかどか送ってくるんで、ここと事務所の両方フル稼働で解析中だ。データを見たルナは遺跡を『秘密組織のアジトにぴったり』とか言って喜んで、オフィス用品を大量に発注したぞ……」
「えええええ!?」
 なんだか、アメリアやあの地下都市とはこれからも長い付き合いになりそうな予感がひしひしとする……。

 予想を超える展開に言葉を失っていると、突然ガウリイに手を握りしめられた。
「な、なに?」
「地上は久しぶりだ! 外に出てみよーぜ」
 そりゃ、いわば千年ぶりだもんね……。
 うきうきしているガウリイに手を引かれ、あたしまで外に連れ出される。メンバーの好奇の視線がちょっと痛いけど、彼の大きな手を振り払うことはなぜかためらわれた。


「お~っ! 広いな!」
 ガウリイが感嘆の声を上げる。
 見渡せば、あたしがここにやってきた数日前と何も変わらない光景が広がっていた。
 赤茶けた岩ばっかりで、土埃が多くて、殺風景で味気無くて――でも、ガウリイは風を捕まえるように両手を大きく広げ、叫ぶ。
「最高だな!」
「……そうかも」
 あの地下に比べれば見上げた空は高く、どこまでも深かった。砂混じりの風さえ不思議と愉快な気持ちにさせてくれる。遺跡に入る前にこの光景を見ても、そんなことはみじんも思わなかったのに、だ。

 ガウリイに地上のいろんな風景を見せたら、どんな反応をするだろう――。
「ねえ、もっといろんな場所を旅してみない?」
「行きたい! 行こうぜ、リナ!」
 ばっとあたしに振り向いて、ガウリイが満面の笑みを見せた。
 彼が一歩近寄ると、風に舞う金髪があたしの髪と混じって一緒になびく。
「ちょっと! 距離近いんだけど!?」
「そうか?」
 なびく髪を押さえつつ、もっとあっちに寄れとガウリイを追いやろうとすると、彼はさも可笑しそうに笑い出した。
「なによ?」
「ぷっ……くくっ、お前さんって……骸骨のオレにはちっともびびらなかったのに、なんで人間に戻ったら近寄るだけでそんなにびびるんだよ?」
「び……びびってないし!」
 生身の姿のガウリイも悪くはない――悪くはないけど、あたしが落ち着かないの!
「骸骨だったころよりも距離が近い気がするんだけど!」
「変わらんぞ?」
 確かめるみたいにさらに詰め寄られて、足がすくむ。そして急に彼の手が伸ばされて、頬にあったかい手が触れてきた。
 目を見開くべきか、ぎゅっと閉じるべきか、そんなくだらないことを考える。
「ああああの、ガウリイ!?」
 あたしのひっくり返った変な声でも、顔を寄せてくるガウリイの動きを止めることはできなかった。そして、ぷちゅっと、頬に軽く彼の唇が押し当てられる感触。

「リナ」
「ふぇっ?」
 間近なガウリイの声が、耳をくすぐる。
「……来てくれて、ありがとう」
 静かに、穏やかに。でも少し泣きそうな、微かに震える声で言ったあと、ガウリイはまっすぐに背を伸ばし、あたしを見下ろして微笑む。

 なによう……そんな顔されたら「なにすんの」って怒る気もそがれてしまう。
 ガウリイはあたしが遺跡に来るのを知って待ってたわけじゃないし、あたしだってガウリイが遺跡で眠っているのをわかってて調査に来たわけじゃない。
 でも、偶然もしくは必然だとしても、あたしたちが遺跡で出会えなかったら、二人とも地上には二度と出られなかったのだろう。

「あたしもガウリイにお礼言わなきゃ。待っててくれて、ありがとね?」
「……おう」
 ガウリイの指先を小さく握った。
 ……まあ、それだけでも相当恥ずかしいんだけど!


「――えっと、どこかに旅に出るにしても、まずは姉ちゃんに今回の報告レポートを提出しなきゃいけないわ。詳細まで書かないとツッコミが入るから、ガウリイも手伝うのよ!」
「そんなこと言われても、オレ、もうほとんど覚えてないぞ?」
「……どんだけ脳みそふやけてんのよ? 眠りすぎたせいなの!?」
「いや、元からこうだ」
 言い合いながら洞窟ドームに戻ると、ゼルに「お前らやかましい。チョコレートやるから静かにしてくれ」と文句を言われたのだった。

■ 終 ■

長い間書きかけのまま放置してたのを重い腰上げて終わらせました。
元ネタは某懐かし漫画です。全然ストーリーは違うけど。
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