リメインズレイダー 11

「確かにあの場所にいるのね?」
 アメリアに聞きながらあたしは足を速める。
 ホログラム映像であるアメリアは地下都市内であったらどこにでも実像できるらしい。映像なのだから移動するときは飛ぼうが跳ねようが彼女の自由なのだけど、律儀にあたしと一緒にすたすたと歩いている。
「――はい、確認できます。しかしリナさん、お気をつけください。ガウリイさんは現在4体のレッサー・デーモンと交戦中です」
「はあ? なんで!?」
「強すぎる水流で、上層から管理棟までデーモンがぶっとばされてきたようです……」
「ああもう……」
 復活して早々、ガウリイは戦う羽目になっているらしい。
「またリセットされちゃったら困るわ。さっさと助けに行くわよ!」

 アメリアが管理棟の外通路へ出るドアを開けてくれる。
 一歩踏み出したあたしは、様変わりしている光景に目を丸くした。
「なにこれ……ダムみたいになってるわ」
「排水が追い付かないためです。作戦が終了したら、徐々に引きますよ」
 昼間のように辺りは明るい。
 建物がみっしり建ち並ぶその下方に、水がなみなみと溜まっているのが見える。そして水道管や窓、ドア、そのほかのあちこちから水が滝となって流れ落ち、轟音と水しぶきを立てていた。
「すごい光景ね……」
 まぶしさに目を細めながら辺りを見回す――轟音に紛れて微かに聞こえる、戦いの音。

「アメリアっ、ガウリイは!?」
「あっちです!」
 急いで駆け出しながら、あたしはいつでも発動できるように詠唱を始めた。
 のっそりとしたデーモン数体が誰かを襲っているのが見える。
 ――あ、一体が今倒された。残りは二体!
「……??」
 その、ちらっと見えた戦いの光景にものすごーく違和感を覚えるあたし。
 ……とにかく、今はデーモンを倒すのが先決!
「黒妖陣っ!」
 あたしの放った呪文が一体のデーモンを包み、それはあっという間に塵と化す。残る一体も素早い剣戟に斃され、咆哮もその姿も、溶けるように消えていった。


「おおっ! 助けに来てくれたんだな!」
 剣を鞘にしまい、あたしに向かって歩いてくる――かしょんかしょんと聞きなれた音がして、あーこれは骨じゃなくて装備の音だったのか、なんてたわいないことをあたしは考える。
「お久しぶりです、ガウリイさん!」
「おーアメリア、やっと会えたな。『グレイシア』はいないのか?」
「姉さんは地上の管理をするために移動しちゃったんです。私はそのあとすぐ休眠状態に入ったんで、もう連絡は取ってないんですけどね」
「そうか……で、リナよ、どうした? さっきからオレの顔みてぼけっとして」

 ――これが、どういう事態なのか薄々わかってる。わかってるけど、なんだかすんなり認められない。
「……あんた誰?」
「ええええ!?」
「リナさんっ!? どうされたんですか? いきなりの記憶喪失!?」
「違うわっ!」
「どーしたんだリナ、オレのこと忘れちまったのか!? デーモンと戦ってきたじゃないか!」
 年のころは二十と少しといったところ。腰まである長い金髪に碧眼、整った顔をした見知らぬ青年があたしに詰め寄り、がしっと両肩を掴んできた。
「んにゃー!! いきなりどあっぷになるなああああ!」
「熱はっ? どっか頭でもぶつけたか!?」
「体温上昇、動悸の症状がみられますっ」
「ああああもう冗談よー!」
 あたしの絶叫が地下都市に響き渡る――。


*****


「あのねえ……人の姿をしたガウリイに会うのは初めてなんだから、あたしが『誰?』って思うのも仕方ないでしょ!」
「……人?」
 はて、とガウリイとアメリアが首を傾げる。
「あんたっ骸骨から人間に戻ってるでしょーがっ!!」
「あ、ホントだ。戻ってる」
「今気付いたんかああああ!!」
「あーよかった。オレこのままずっと一生、骨で過ごすのかと思ってたー」
 おい。一生て。どんな一生だ。

「骸骨って……何があったんですか?」
 骸骨姿だったころを知らないアメリアがきいてくる。
「こいつ、初めて会ったときは骸骨戦士の姿をしてたのよ……それもエネルギー不足だったせいなのかしら?」
 出会ったときの状況を説明すると、アメリアがあたしの予測に同意した。
「都市機能全体がセーフモードになっていたので、『守護者』も省エネな姿になっていたんでしょう」
 そんな、クールビズみたく簡単に仕様変更しないで欲しい。
「魔力が足りないからってなにも骸骨にしなくても……」
「戦うには骨だけでも問題ないんで。ですよね、ガウリイさん」
「あー確かに」
「問題あるっ! 大アリよっ!!」
「いーじゃないか、もう元の姿に戻ったんだし。リナもこの姿のほうがいいだろ?」
 ガウリイが、にこっと笑ってあたしの肩をぽんぽんと軽く叩いてきた。

 ……ガウリイってこんな顔して笑うんだ。穏やかな声と笑顔がすごく合っている。本人の申告通り、モテそうだ――でもやっぱり、この姿を素直に認めてしまうのはなんだか負けた感じがして悔しいし。

「……どっちかってゆーと骸骨のほうがかっこよかったわ」
 があああん、と音が出そうなショックな顔をしてガウリイが固まる。
「へえー、リナさんのセンスって変わってますね!」
「アメリアに言われたくないわっ!」
 ふと気付いたら、ガウリイは蹲っていじいじとしている。
「なあアメリア……骸骨の姿に戻る方法ってないか……?」
「ないですぅ」
「あーもう! 骸骨に戻らなくていいから!」

 いじけるガウリイに、あたしはしぶしぶ――「やっぱり人間の姿のほうがかっこいいかもしんない」と言う羽目になってしまったのだった……。
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