轍のない道を 1

 どうしてリナと別れることになったのだろうと考えるたび、ガウリイは考えの整頓がつかなくなる。運が悪かったのか、自業自得だったのか――気付いたらいつの間にかすれ違っていたとしかいいようがない。

 ゼフィーリア行きをいつになく主張して行程を急ぐ自分と、訪れた療養地として有名な街で少し腰を落ち着けて論文を書きたいというリナの要望が最初のずれだった。
 論文くらいゆっくり書かせてやればよかったのに、「そんなのゼフィーリアでも書けるじゃないか」とガウリイは発言してしまった。その自己中心な言い方にむっときたのか、リナは憤然として「そんなにゼフィーリアに行きたけりゃ一人で行けば!」と吐き捨てるように言った。
 それから空気が悪くなって、何度目かの静かな食卓の時間にリナが「しばらく別行動しましょう」と提案してきた。
 雰囲気につられて「それがいい、オレも二人旅に飽きてきたところだし」なんて心にもないことをなんでもないように言ってのける。ちらりとリナの様子を伺うともくもくと食事を進めていて、ガウリイの発言をどう捉えたのかはよくわからなかった。

 翌日、ガウリイは護衛しながら街道を往復するという仕事をさっさと見つけてきた。宿を出るときくらいリナに声をかけようかと思ったが、つんけんとして部屋から顔も見せない。それならそれでかまわないさとガウリイは何も言わずに出発したのだった。

 護衛は数日で終わる予定であったのに、主街道ががけ崩れで通れないだとか目的地で依頼人の仕事がはかどらず足止めをくったりで長引いた。契約より延長した場合の料金の交渉など、ガウリイがリナのように上手くできるはずもなく、ただ数日を無駄にしてしまったことにも精神的に疲れた仕事だった。
 そしてガウリイがリナのいる『はず』の街へ戻ってきて――宿にもう彼女がいないことを知って呆然とした。
 どういう依頼を受けたのかリナに説明せずに出発してしまったのは自分だったが、てっきり宿でいつものように落ち合えると思っていた。しかし宿にリナの姿はなく、ガウリイへの言付けもされてない。焦ってほかの数多くある宿をあたってみてもリナらしき人物はどこにもいなかった。魔道士協会を訪ねてみれば、リナはあれからほんの数日で論文を仕上げて提出し、それ以上の痕跡は残っていなかった。

 喧嘩をしても冷却期間を置けばいいことだと軽く考えていたのに、まさかリナが黙って姿を消してしまうなんてガウリイは少しも考えていなかった。

 こんな嫌味ったらしい仕打ちをしなくてもいいじゃないかと怒りも湧いてきたが、よくよく考えてみれば自分たちは『理由もなく』一緒に旅をするだけの仲間であって、何の約束もない関係であることにガウリイはしばらくして気付いた。今までの信頼関係の上にあぐらをかいてただけだった。結婚という契約関係になければ、家族でも恋人同士ですらない、ただの他人同士。
 他人だけれど――それだけじゃなかったはず。
 自分とリナには絆があった。何にも勝るほどの、強い絆が。

 ガウリイは街に落ち着く間もなく、すぐにリナを探す旅に出発した。それ以外に選択肢は存在しなかった。手がかりはないがリナはあれだけのトラブルメーカーなのだ、騒ぎのあるところに行けば会えるという確信があった。

 リナの騒ぎを引き起こす体質と自分の勘があればすぐに見つけられる、とガウリイははじめ楽観視していたが、それからリナに再会するまでは予想外に――半年以上もかかったのだった。
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