リナちゃんの告白大作戦 1

「好きですぅっ!付き合ってください~~っ!!」

 ──あたしは両手を顔の前で組んだぶりっこのポーズで、目の前の男にそう言った。

 街を一望できる小高い丘の上は、ろまんちっくな告白には最適の場所!
 空は晴れ渡り、気温は暑くもなく寒くもない、最高に良いお日柄。
 まさに告白日和っっ!
 あたしがつい今告白したその男の名前はアラウンという。
 旅の途中で立ち寄ったこの街の「議員の息子」らしい。
 まぁ目鼻立ちは悪くはないが、自称保護者を毎日見慣れているあたしからしたらランクは中の上ってとこかな……。
 アラウンはあたしの告白に片方の眉だけを上げて反応し、それからをじろじろとあたしを値踏みするように見まわした。
 ちなみに、今のあたしの格好はいつものマントとショルダーガードの装備を外した軽装。一目で魔道士とわかるあの装備をしてないと、かなり可憐な美少女に見える……はず。

 なのだがしかし。

 アラウンはあたしを再度一瞥したあと、
「……せっかく告白してくれて悪いけど、僕好きな人がいるから」
 あっさりそう言うと振り向きもせず、すたすたと去って行く。
「あっ!ちょ、ちょっと待ってよ!!」
「う~ん、今日はフェシーにどんな贈り物をしようかな~vv」
 こ、こんな美少女がかわいらしく告白しているっていうのに!
 なんて失礼な奴なんだぁっっ!!
 怒りに震えるあたしを気にも止めず、アラウンはさっさと歩いて行った。
 彼の気持ちはすでにフェシーの方へ向いている。
 告白したかわい~女の子♪……のことなど、まったく眼中にないようだ……。

「リナお得意の実力行使で彼女のこと諦めさせたほうがいいんじゃないかぁ?」
 ちょうどあたしの背後にある木の陰から、ガウリイがひょこっと顔を出す。
「も~!あんな奴、ぶっとばしたいのは山々だけど契約違反になっちゃうのよね」
 丘から下って去って行くアラウンの後ろ姿を、あたしは歯がゆい思いで見送るしかなかったのだった。

 ──話は半日前にさかのぼる。



 むちゃくちゃ豪華ってわけでもないが、どことなく品の良い家。
 その家の主が依頼を請け負う旅人を探していると聞いて、あたしとガウリイは内容の確認のためにそこを訪れた。
 通された客間では、依頼主のおじさんが沈痛な面持ちでソファに腰掛けている。
「……ようこそおいで下さいました。あなたがたが依頼を受けて頂けると?」
「それは、依頼の内容を確認してからです」
 部屋に入るなり依頼の話をしだすおじさんに、あたしはきっぱりと言う。
「……う~ん……あなたにできるかどうか……ちょっと……心配なのですが……」
 あたしをじっと見て、それから歯切れ悪く言う。
 ちょっと……それってどういう意味よ?
 しかもその心配ってあたし一人に限定なワケ?
「あの。依頼を果たすのにあたしの見たくれが関係あるっていうんですか?」
 外見であたしの実力を侮ってもらっては困る。
 むっとした言い方で返すと、おじさんは慌てて言い訳をした。
「気を悪くされましたか……すみません。この依頼の内容が内容なもので……」
「とりあえず、依頼の内容を話して頂けませんか? あたしにできるかできないかはそれから判断しますし」
「……わかりました。フェシー、入ってきなさい」
 おじさんが自分の後ろ側にある、あたしたちが入ってきた所とは違う扉に話しかけると、そこから女性が現れた。
 長い髪、整った顔立ち。
 ロングワンピースの上からは柔らかい色のショールを羽織っている。
 すらりとして線は細いようだが、プロポーションはいい。
 そして物憂げな表情であたしたちに挨拶をする。
 ──思わず見とれてしまうほどの美人だ。
「一人娘のフェシーです。このたびめでたく結婚が決まりまして、婚約もすませたのですが……」
 おじさんが溜息をつく。フェシーが続けて言った。
「実はこの街の議員の息子に気に入られてしまって。毎日しつこく言い寄られて、ほとほと困っているんです……」
「そんなの断わりゃいい事じゃない?」
 あっさりと言うと、おじさんは首を横に振った。
「私はこの街から外への流通で商売しています。あのバカ息子とはいえ、下手に断わって議員に目をつけられたら……商売が立ち行かなくなります」
「……あなたの婚約者は何か言わないの?」
「私の婚約者はここより二つ離れた街に住んでいるので、まだ耳には入っていないようですが……でもあらぬ噂をたてられる前にどうにかしたいのです」
 あたしの質問にフェシーさんが答える。
 ふんふんなるほどね。
「んでどうするの? 下手に断わることもできないけど諦めさせたいってことよね?」
「それで……」
 おじさんが言いよどむ。
「アラウンを……あ、その議員の息子の名前なんですねどね。彼を他の女性に惚れさせればいいのではないか、と思っているのですが」
「他の女性に惚れさせる?」
 なんつー短絡的な。
 そんな簡単に人の気持ちを変えられるようだったら、世の中もっと平和だと思うぞ!
「ほ、惚れさせるって……そんなに簡単にできることじゃ」
「いや。実はアラウンはかな~り惚れっぽいんです。それで今回のターゲットが運悪くフェシーになった、というだけで。はぁ、でもこんなにタイミング悪くウチの娘に惚れなくても……」
 惚れっぽい男かぁ……ろくでもないわね~。
「私ではなく、他の女性に目を向けさせるようにしたいんです。でもこの街にいる人に頼んだらあとあと厄介でしょうし」
「それで旅人を探していたってわけね」
「そいつをぶっとばして諦めさせるってのはダメなのか?」
 おおっ!? ガウリイが依頼の話に参加している!!
 天変地異の前触れか!?
「そんなことはダメです!『フェシーに言い寄ったせいで怪我をした』なんて不名誉な噂が立つじゃないですか」
 おじさんが却下する。確かに商人は信用第一だし。影で噂が立つのは避けたいのだろう。
「不名誉な噂……か。リナなんて噂をとおりこして不名誉な真実が多いけどな」
「だまれ! しかしあんた、今までの話理解してんの?」
「へ?ああ、わかるぞ。その男をリナに惚れさすようにするんだろ?」
 何があったガウリイ。あんたが依頼の内容を理解するだなんてっっ!
 ……ん? ガウリイはフェシーさんとあたしとをきょろきょろと見比べている。
「なぁリナ。この依頼、今までで一番難しいんじゃないかぁ?」
「雷撃っ!」
 ──痺れて床でぴくぴくとひれ伏すガウリイを尻目にし、あたしはフェシーさんとおじさんに「この依頼、果たしてみせますっ!」と力強く宣言した。
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