自覚前

「そろそろ夕食か」
 窓から暗くなっていく景色を見て立ち上がる。
 どことなく心は浮き立ち、軽い足取りで階下の食堂に向かった。
「……なにが嬉しいんだ?」
 そわそわとして落ち着かない自分に、自問自答してみる。

 食べるのが好き?
 好きだけど一人のときはこんな気分にはならんよなあ。
 リナと食べるご飯が楽しいとか?
 それは、確かに楽しい。
 でも食事じゃなくったってリナといるのは楽しい。

「なんだ? オレはリナが好きなのか?」

 いやいや、まさか!
 初めて会ったとき一目でわかったはずだ。リナは対象外と。
 自分の好みはああいうのではない。ちまっとした鼻とどんぐり眼は、まあ、たしかに可愛いではあるけど子供っぽいし。それに少年にさえ間違えられるほどの、何も引っかからなさそうなあの胸。
 うん、やっぱりリナへの感情は女性に対するものというより……妹とかペットを可愛がるのと同じなんじゃないだろうか。

 結論に納得したところで食堂スペースに目を向けると、リナが誰かと楽しそうに話をしている姿が目に入る――男だ。誰だあれ?

 会ったことあるやつかないやつか、リナとどういう知り合いかもわからんが。
「なんかすっげえムカつくな」
 このイラつきはなんだ?
 二人で楽しそうだと仲間外れされてるみたいな気分になるからか?

 ……こんな大人げない不満、気付かれたらかっこ悪い。
 口の端をむりやり笑みの形にして、二人のいるテーブルに向かった。

■ 終 ■
Page Top