「リナ、ほれ。こーゆーの好きだろ?」
ガウリイが露店で買ったらしい、粉砂糖のまぶされた揚げ菓子をあたしに差し出した。菓子のいい匂いが鼻をくすぐる。
ガウリイは二つに割って迷わず大きい方をあたしに渡した。手がべとべとにならないよう、紙でさっと巻いてくれる。
「荷物貸せよ。持っとく」
あたしの荷物をひょいと奪い取り、代わりにオレンジジュースを押し付ける。
至れり尽くせりってゆーか……。
「座って食べたい」
「それもそうだな」
ベンチを見つけるとガウリイは枯れ葉や汚れをさっと払う。綺麗にしたところにあたしが何気なく座れるよう、自然なスペースを作ってどかっと座った。
「あ……ありがと」
「ん? ああ」
これは、何について礼を言われたのかわかってない顔ね……。
ガウリイの一連の優しい行動は無意識なんだろうか?
すっとぼけているようで、実はガウリイはよく見ているし気が利く奴なのだ。
疲れていたら隠していても見破られ労わられる。
なんだかんだ言ってあたしのワガママにも根気強く付き合ってくれる。
あたしのおしゃべりが止まらないとき、否定や反論をせずに頷いてただ聞いてくれる。(寝てる時もあるけど!)
ガウリイがあたしに説教するのは、たいていがあたしの行動に非常識さや危険を感じたときだけ。
やっぱり、ガウリイは優しい。
それでいてこのルックスでしょ。
そりゃモテるわ……。
一緒にいるとよく分かるけど、ガウリイは清潔でキチンとしてる男だ。
あの何日も風呂に入ってなさげな、不快感あふれる盗賊どもとは明らかに違う。
武器、道具の手入れだってしっかりしてる。手抜きが戦いの結果に直結するからという理由があるにしても、身に着ける物は快適に使い続けられるよう、それなりに気を使っている。
男って……もうちょっとガサツで乱暴なものじゃないの?
もしかして、ガウリイは歴代の『彼女』から「こうしたら女の子は喜ぶ・嫌がる」といったことを教わって、現在のようになったんだろうか?
ンなことをもやもや考えながら食べていると、あまり味も感じない……。
「リナ? どーした、この味は好きじゃないのか?」
「いや、好きよ」
ぱっと見上げたらガウリイと目が合った。
「好き、なんだな?」
「あ……う……うん、好き」
ガウリイがほっとした顔をする。
「よかった。オレのばあちゃんもな、こういう菓子が好きだったんだ」
「……ガウリイの、おばあちゃん?」
「よく二人でデートしてこういうの食べた」
ガウリイの思い出話は、めずらしい。
「おばあちゃん子だったのね」
「ああ。優しかったけど躾けも厳しかったぜ。『身だしなみをきちんとしろ、礼儀正しくしろ、女の子はお前と違って繊細なんだから労われ、大事にしろ』とか、いろいろたくさん言われたなー」
だんだんと分かってきた。
ガウリイの無意識の優しさって――彼のおばあちゃんのおかげかもしれない。
三つ子の魂百まで、意識せずにガウリイがこうも優しくしてくれるのは、幼い頃からの躾で身に着けられたものなのかも。
「……おばあちゃんに感謝だわ」
「なにが?」
「なんでもない」
納得したあたしは、食べかけのお菓子をぽいと口に放り込んだ。
■ 終 ■