頼りになるひと

「また熱が上がってるわ」
 額と額をくっつけてリナは言う。身を起こすとベッドに寝るガウリイがぼんやりとリナを見上げた。彼の目は赤く充血して腫れぼったい。
 リナは続けてガウリイの首やあごの下を撫でてほかほか状態を確認し、氷嚢が必要ねとつぶやいた。
「う゛~」
 気だるげに唸ってぐったりするガウリイの額に、とりあえずの濡れタオルを乗せる。
「鬼の霍乱とはこのことね」
「……うにのたくあん?」
「お・に! ……ま、今は急ぎの用もないし、治るまでゆっくりここで養生しましょ」
「ずまん、リ……がはげへっ!」
「無理して喋らなくていいから」
「げほっ……リナは、看病してて大丈夫、か?」
「何が?」
「お前ざんに……風邪がうづったら……」
「んなこと言ったってあたし以外に看病する人いないんだから、そんなことは気にしないで寝てなさい! それに、アレンジした風の呪文であたしからガウリイに向かって風が流れるようにしてるから大丈夫!」
「それで屋内にそよ風が……」
「そゆこと。あたし洗濯してくるから大人しく寝てるのよ?」
「わがった……」

 心細げに目線だけで見送るガウリイを部屋に置いて、籠を抱えたリナは宿の外に設えてある干場へ向かった。
「いい天気ね~!」
 宿屋のシーツやタオルといった洗濯物にまぎれて、宿泊客たちの各々の洗濯物も風にはためいている。
 リナは水場で手際よく洗った洗濯物を、そこへ干していった。
「でかぱん!」
 ガウリイの下着を干しながらリナは思わず笑う。
 ぱしんと勢いつけて広げ、皺を伸ばしていると、ガウリイの衣類はやたら大きく見える。
「干してるとよけいに大きさが違って見えるわ」
 ひらひらとはためくリナとガウリイの洗濯物。
 その向こうから陽光が照り、籠を持ったリナは目を細めた。

*****

「……げほっ、ごほっ……」
「風の呪文は効果なかったみたいだな」
「ぞうみだいね……」
 ガウリイの風邪が治ってくるにつれ、次はリナが咳き込みだし、喉の痛みに続けて熱が出てとうとう寝込んでしまったのだった。
「オレがしっかり看病するから、安心して寝てろ!」
「う゛~」
 寝込むリナのすぐそばにあるサイドテーブルには、風邪薬、水といった看病セットや果物やらが山のように置かれ、ガウリイが張り切って看病に挑んでいるのが見て取れる。先日の返礼も兼ねてるのだろうが、少し張り切りすぎじゃないだろうかとリナは困惑した。
 そんな室内を見渡して、リナははたと気付いた。
「……なんだが荷物、少なぐない? あだじのぜんだぐものは?」
「洗濯物? ああ、リナが寝てるときにぜんぶオレが洗って干しといたぜっ!」
 褒めて!ねえ褒めて!とまるで顔にでも書いてあるかのようなキラキラした笑顔をガウリイは浮かべている。
「干し……え、あだじの服?下着も?ぜんぶ?」
「おうっ!」
 服のみならず、パンツを洗われてしまったことにリナは熱で赤くした顔をさらに真っ赤にさせてうろたえた。
「え……んで……パンヅどこに干じだの?」
「どこにって。あっちに」
 ガウリイがぴっと外の干場を指差す。
「ぬぁっ……! お、おんなのごのパンヅをぞどにぼじだでずっでえ!?」
 洗濯物は基本、室内干しだ。ここの宿のように干場がある所だとしても、リナは自分の下着は部屋に干している。女物の下着は屋内に――ごく常識的な判断だ。
 しかし、男のガウリイにそんな心遣いができるはずもなく。
 リナの脳裏に、衆目にさらされながら堂々と風にはためく自分のパンツが想像された。
「リナ、今起きたらダメだ、安静に……」
「ぞんな問題じゃないいい! ばやぐもってきてええパンヅうがはげへごほっっ!!!」
「うわー! リナ大丈夫かっ!?」

 ――外の干場にはガウリイとリナの服に続いて、二人のパンツが仲良く並んでいる。
 そのうち、どやされたガウリイが慌てて取り込みにやってくるだろう。

■ 終 ■

スレ界でのパンツのありかたはずっと議論されるネタだと思うんですよね
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