no裸族

 嵐のような雨に見舞われた。宿屋にたどり着くまで風雨をしのげる場所もなく、どうしても濡らしたくない所持品をかばって歩くので精一杯。雨ってのは下からも降ってくるものなのかとガウリイが痛切に実感してるうちに、なんとか宿屋に到着したのだった。
 着ているものは勿論のこと、荷物の中の衣類も濡れている。仕方なく金を払って二人分の洗濯を依頼し、着る服がないので部屋に食事を運んでもらう。誤算は、宿屋に貸し出してくれる服がいっさいないことだった。
「宿があっただけマシなんだろうな」
「そうねー」
 ガウリイはシーツを腰に巻き、リナは毛布を肩からぐるぐるに巻き付け、隙間から腕を出している。部屋の隅に干してある二人のブーツから水滴が滴り落ち、床に小さな水たまりができていた。
「なんか……こういうの、久しぶりだなー」
 なにが久しぶりなんだ、とガウリイは自分の発言の後に思考した。
「ああそうか。前はよく服着ないで寝てたりしたんだった」
 一人で旅をして、リナと出会う前は――洗濯の手間をケチって、部屋にいる時は裸で過ごしたりしていた。楽で涼しく、快適だった。しかしリナと同行するようになって、女の子がいるのに馬鹿な真似をしてはいけないと、部屋に一人でいる時でも全裸になるのはやめたのだ。
 つい口に出してしまったが、軽蔑されやしなかっただろうかとリナの様子を見ると――
「アレ、楽でいいわよね。あたしもよくやってた」
「は!?」
「貸し出しの寝巻きを用意してない宿なんてよくあるし。部屋に一人なら服着てる意味なんてないもの」
「そ、そうだよな。うん」
「裸で寝ると気持ちいいわよねー」
 同意してあははと笑いつつ、全裸で過ごすリナを想像しそうになってガウリイは焦る。
「はっ。まさか……今でも裸で寝てるときがあるのか?」
「あるわけないでしょ!」
 即、否定された。
「ガウリイと旅するようになったんだもの。もうそんなことしないわ」
「そうか……そうだよな」
 安心したような、残念なような。
 お互い、多少は連れに気を遣っていたらしい。
「だから、服を着ないで寝るのは一人旅以来だわ」
「オレもだ――今夜の寝相には気をつけろよ」
「そっちこそ!」
 くすくすと笑ったあとの沈黙。
 外からは、激しい雨音が緩まない調子で続いていた。
 あえて裸で寝るのではなく、二人でいるうちに裸で寝てしまうことになる事象もガウリイは知っているが、ここで口に出すべきではないだろうと判断する。
「……紐で体に毛布を括り付けておこうかしら?」
「いいなそれ」
「あたしでなくてガウリイによ」
「なんでだよ」
「目の毒!」
「見なけりゃいいだろ」
 毛布を引きずりながらリナが近寄ってくると、シーツを掴んでガウリイの肌を覆うために奮闘し始める。
 どっちが目の毒だよと思いながら、ガウリイははだける隙間から視線を外したのだった。

おわり
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