把握済

 屋台の行列に並ぶリナのところに、買い物を終えたランがやってくる。
「あ、ラン! あなたは自分のもの買えたの?」
「うん、買ったー」
 掲げるその手にはサンドイッチのようなもの。
「ガウりょすは?」
「あっちのお店に並んでるわ」
 リナの示す方向に金色の頭が見える。
「ねえラン。この屋台ってどんな料理なの? 香ばしいにおいがする」
「んーと、木の実を小麦粉みたいにしてー、ねってこねて好きな具を乗せて釜で焼いてー、最後にソースかけるやつ」
「へえ、それだったら間違いなく美味しそうね!」
「おいしいよー。リナにょんたちの故郷にはどんな料理があった?」
 問われて、リナはぱちくりと目を瞬かせた。
「あたしとガウリイの故郷は違うわよ」
「そなの?」
 列が進み、二人は一歩だけ前に進む。あともう少しで順番が回ってくる。
「そーよ……そういえば、あたしあまりガウリイのこと知らないのよね……」
「ええっ!?」
「そんなに驚くこと?」
「リナにょんはガウりょすのことなら何でも知ってるみたいだもん」
「いや……これだけ一緒に旅しててもぜんぜんわかんないのよね。家族とか故郷のこととか。どうやって傭兵になったか、とか……」
 二人で話すうちに順番となり、屋台の店員に注文する。
「えっと具はこれとこれを乗せて、焼き加減は柔らかめ。こっちは肉を多めにして焦げ目が出るくらい焼いてちょうだい」
「……リナにょん、ガウりょすのも注文してる?」
「してるわよ」
「ガウりょすに確認しなくてもおっけー?」
「ガウリイの好みは単純だからだいたいわかるわ。あ、ソースはそっちのほうをお願い」
 注文した料理を受け取って、リナは広場へ向かって歩き出す。ランが他の店舗を指差した。
「あっちの屋台もおいしそうだったよ」
「そっちの店ね。ガウリイがさっきちらっと見てたから、買ってくると思う」
「……へ?」
 しばらくすると、どこかの屋台で買い物を終えたらしきガウリイが、こちらへ来る途中で引き寄せられるようにその屋台へふらりと立ち寄り――料理を買って二人のもとへやってきた。
「ほれ、この串焼きおいしそうだぞ」
「ありがとー」
「こっちはあっさりめだと。オレのは薬味を多くしてもらった」
「あんたねー。よくわかんないスパイスがもし口に合わなかったらどうするのよ」
「大丈夫、全部責任もって食べる」
「もー。いっつもへんなとこで冒険するんだから。あっ、これは美味しい! 当たり!」
「やっぱりなー。お、リナが買ったやつもうまい」
 ランはふたりをきょとんとしながら交互に見遣る。
「ラン? 食べないの?」
「んー、たべる……。リナにょんはガウりょすのことよく知ってると思うよ?」
「ふへ? なんのはなひ?」
「リナ、あっち」
「んん?」
 横からガウリイがくいくいとリナの袖を引っ張った。
 彼の指さす屋台、その店頭の料理にそそるものがあるらしく――二人は目をきらきらさせながら、さっと進行方向を変える。

「ふー、息ピッタリ」
 つぶやいて、食欲の赴くまま歩いていく二人の後ろをランは追ったのだった。


おわり
Page Top