マカロニ

「あんたの考えてることがわかんない!」
 出し抜けに言われ、ガウリイはきょとんとする。
 そして青い瞳はリナの本意を見つけようとまっすぐに見てきたが、リナは彼から顔を背けた。
「……なんでだ?」
「よけいな一言が多いかと思ったら何も言ってくれないところもあるし!」
「そうかあ?」
 首を傾げて頬をぽりぽりと掻く。
「オレはわかりやすい人間ってよく言われるぞ。隠し事もできない性格なんだがなあ」
「正直者ではあるけど。でも、あたしに話してくれないこともいろいろあるじゃない」
「そりゃ誰だってそーゆーのあるだろ。お前さんだってオレになにも言わずに仕事とか推理とか進めることあるじゃねーか」
「それはっ……あんたは、言わなくてもわかってくれるときがあるから、説明はいいかなーって」
「わかんないときも多いぞ」
「それはまあ、あたしがそのほうがいいと状況判断したわけで」
「つまり、言うか言わないかはその場によるんだろ? オレもそうしてるだけだ」
「うむう」
 納得がいかない、と口をとがらせるリナの頭を大きな手がわしわしと撫でた。
「じゃあなんでも聞けばいい。教えてやるよ」
「なんでも?」
「おう。でも、それでオレとリナの関係が――」
 撫でていたガウリイの指先が髪の中に入り込む。頭皮を鷲掴みされる感触に、ぞわりと粟立った。
「――今までみたいじゃなくて、もっとぐずぐずに煮えて形が変わったものになるかもしれないぞ?」
「……え?」
 彼の表情は冗談を言っている顔ではない。
 薄く笑っているのに、リナがどのくらい本気なのかを問うている。
 そうか、と悟ったリナは瞑目した。
 再び目を開いた時にはもう迷いはなかった。
「じゃあ、いい。聞かない」
「そうか」
 リナの髪を指で梳きながら手が離れていく。
 ガウリイはいつもの穏やかな微笑みを浮かべていた。そこには落胆も歓喜もない。普段の彼に戻っただけだ。
「……わかんないことだらけだけど、やっぱり、あたしたちにはこれくらいがちょうどいいわ」
「そーだな」
 どちらからともなくそっと手と手をつないだ。
 互いの奥の奥までさらけ出すことは、たぶん出来る。
 でもそのあとは――きっと個々の『形』を保てなくなる。
「今はこれくらいの感じでいいのかもしれない」
 独り言として聞き流してくれたのだろう。ガウリイは何も言わず、リナの手の温度を確かめるようにやわく握りしめた。

■ 終 ■
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