「いい? 疑われないようにしっかりカップルのフリをするのよ!」
しっかり……て、どうしっかりカップルすればいいのだろうか。そもそもカップルの定義って何なんだ? 「自分たちはカップルです」と宣言してしまえばそれですむことだろうに。
「ここよここ! おばちゃんから教えてもらったレストラン」
リナの標的となったレストランに到着する。
立て看板には『カップル割あります』の宣伝文句。
「ガウリイ、なるべく自然体でね!」
「あーはいはい」
「余計なことは言っちゃだめよ。あたしに任せておいて」
「わかった」
先頭をきって店に入るリナの足取りはスキップせんばかりだった。
そんなに安くなるのが嬉しいのか。さすがリナ……。
入ってすぐ女性の店員さんが出迎えてくる。
「いらっしゃいませ~。お二人様ですか?」
「はい! カップル割でお願いします!」
気合の入りまくったリナの返事。
店員のおねーさんは伝票にさらさらと書き付けて。
「カップル割ね。じゃ、キスしてください」
「………………は?」
「だから、キス」
「こ、ここここで?」
「そーです。そうじゃないとカップル割は適用されませんけどぉ」
言って、オレたちを交互にちらっと見た。
「え……え……ええ……」
やばいぞリナ。動揺しまくってるのがもろバレしてるぞ。
余計なことは言うなと言われたオレは、リナがこれにどう出るのか、彼女を見ながらただじっと待つ。
そんなオレたちの後ろにはレストランに入ってきた次の客が並びだす。
店員のおねーさんは伝票を指でとんとんと叩いて苛立ちを露わにしはじめる。
「じゃあ通常料金でいいですかあ?」
リナの瞳が絶望に震える。
あーもう見ちゃおれん。
「リナ」
こっちを見たその拍子に、さっと屈んでリナに顔を近付けた。
リナの顎に添えた自分の指に口をつけただけだけど、髪で隠れて店員には見えやしなかっただろう。
「二名様、お席にご案内しまーす」
事務的に言って先導する店員に、オレは目をまんまるくしたまま呆然とするリナの手を引っ張ってついていく。
「ほれ、しっかりカップルらしくしろって」
■ 終 ■
キスは、ここに出てこない店長のアイディア。
店員のおねーさんは日々カップルのキスを見せられてちょっとイラついてますw