「あーもうっ! ぜんぜんあたんないっ!」
かわされたうえ、腕に枝を当てられたリナがぼやく。
「でもなかなか動き早いほうだぞ?」
「あんたに当たんなきゃ意味ないじゃない!」
ガウリイは、手に持つ剣がわりの枝を揺らしながら今の打ち込みの欠点を軽く説明した。
今日の剣の稽古は防御よりもガウリイへの打ち込みを主としているのだが、やはりというか当然というか、リナの打ち込みはどのように工夫してもことごとく避けられてしまうのである。フェイントを入れたり、体術を駆使してもすべてをかわされ、最後には軽く一本取られてしまう、の繰り返し。
「ガウリイの枝は短いし……リーチは同等だと思うんだけど……」
少し考えたリナはふいっと背をむけてその場から離れると、今まで自分が持っていた枝と同じくらいの長さの枝をもう一本探して戻ってきた。
「それに持ち替えるのか?」
「違うわ」
にやりと笑みを浮かべたリナは両手に枝を構える。
「二刀流か? 二刀流は訓練してないと扱いにくいぜ」
「やってみなきゃわからないじゃない」
じゃりっ、と土を鳴らし、リナは仕掛けてきた。
(二刀流は攻撃に向いてそうって予想する気持ちはわからんでもないが)
(付け焼刃じゃなー)
四方八方から絶えなく打ち込んでくるリナの枝をガウリイは容易く受け流していく。
「なん、でっ、そんなに余裕なのよ!」
「しゃべると隙が多くなるぞー」
「もぉっ!」
踏み入るリナの攻撃、右側は自分の持つ枝でいなし、続けて来た左は枝をするりとかわしてそのままリナの手首を掴んだ。
正面からガラ空きになり――生まれた大きな隙。
(いや、枝とはいえ顔を打つのはまずい)
手に持つ枝でそのままリナの枝を封じ、ガウリイは一歩踏み込む。軽くかがんで頬に口付けた。ちゅ、と鍛錬の場には似合わないかわいらしい音がする。
脊髄反射の咄嗟の判断は、ガウリイ自身もびっくりさせた。慌てて後ずさる。
リナはというと両手から枝を落とし、呆然と自分の頬を押さえている。
「あ! えっと、その! あのだなあ!」
「………………」
「えーと、だから、今みたいに隙が大きくなるから二刀流はやめたほうが、ってことが、ええと」
ふるふると肩を震わせ、リナは顔を伏せがちにしたまま叫ぶように言った。
「……ありがとうございましたっ!」
「……へ? あ、ああ……」
つられて一礼を返したガウリイの顔に、拳が飛んでくる。
「いってえ!」
「『ありがとうございました』は稽古のお礼! 今のは、さ、さ、さっきの一撃の礼よっ!」
「一撃って……」
「るさいっ」
足早に宿屋に戻るリナをガウリイは追う。
「待てって! 今のは悪気があったわけじゃなくて……」
「じゃあどういうつもりだったってゆーのよ!」
キスされた頬と殴られた頬とを赤くしながら、二人の照れ隠しの喧騒はしばらく続いたのだった。
終
ガウリイは二刀流でもうまそうだ