この頃、リナはよくガウリイの部屋に入り浸る。
何をするというわけでもない。持ち込んだ本を読んだり、ぽつぽつと明日以降の旅程のことを話したり、今日見たものや食べたものについて語ったり──。
話すことがなくなれば、沈黙のままぼうっとしている。
「ほら、もう遅くなってきたから自分の部屋に戻って寝ろ」
「うん……」
そうやって促しても、腰が重い。
困ったような、困惑した顔が答えを求めるようにガウリイを見遣る。
リナのそれが何なのかガウリイは薄々わかっていた。
リナは、おそらく──変化を求めている。
現状に飽き飽きしていて、自分の心身の成長はもどかしく、なにも変わらない明日が来ることがわかりきっており、就寝の前にも繰り返される同じ日々に心底がっかりしてしまうような。そういう、十代の焦りを抱えているのでは、とガウリイは思う。
自分にもそんな時代に覚えがあるし、そういったときに『夜』は非常に魅力的だった。長く暗い夜に、異性と二人でいたら決定的な変化が──大変革が訪れ、朝には新しい自分になっているんじゃないかと。そう考えていたことが自分にもあったのだ。
「……でもな~」
おもむろにリナへ手を伸ばし、その猫っ毛をゆるゆると撫でてやる。
「な、なに? なにが『でもな』なの?」
ぱっと色付く頬が可愛らしい。
「なんでもない。早く寝ろ」
わしゃわしゃと、自分の邪念を払うようにリナの髪をかき混ぜる。
「もお。やめてよね」
すげなくされてリナは渋面になった。
しぶしぶと立ち上がり、部屋を出ようとノブに手を掛ける。
「……おやすみ」
振り返ってガウリイを見るリナは──諦めと、『どうして自分がこの部屋から去りがたいのか?』という疑問が混ざって、気まずそうな表情をしている。
「おー。おやすみ」
なにも気付かない素振りでガウリイはひらひらと手を振った。
そして静かに閉まったドアに鍵を掛ける。
ベッドに寝転んで小さく息を吐いた。
まだ、早いように思う。
せめてリナの実家に挨拶に訪れてから、この関係を進めたい。それまでは『保護者としてリナを守る』と決心したことを曲げたくない。リナを清いままにしておきたい。
(──だけど、いったいいつリナの実家に着くんだ?)
なんやかんやとトラブルがあって、頻繁に足止めをくらう。この状態ではあと数年はかかりそうだ。
(ぼやぼやしてじいさんばあさんになっちまったらどうしよう)
さすがにそれはないとは思うが、可能性はゼロではない。
なにかのタイミングを節目とするべきだろうか、とガウリイは唸った。
「そうだ。年齢はどうだろう」
例えばガウリイ自身が脱童貞した年齢など。
一拍置いて、ガウリイは愕然とした。
「過ぎてるじゃねーか! リナも!」
ああもう、と頭を抱える。
(やっぱり、リナの実家だ。まずはそこについてからだ。後のことはそれから考えよう)
うんうんと一人頷く。
判断を先送りにしただけだが、そのリナの実家はガウリイの想定よりもはるかに、はるかに──遠いのだった。いろんな意味で。
終