fall in

 リナは断崖絶壁のてっぺんから躊躇なく下を見下ろした。
「すごい眺め。あんな遠くまで見える……絶景ね!」
 そんなリナの後ろから、案内人がおずおず声を上げる。
「あまり端っこに行くと危ないですよ!」
 やれやれと──ガウリイは身を乗り出すリナの片手を取って握り締める。その時、崖の下から風が吹き上げて、マントや二人の髪を激しくなびかせた。
「目的地は、あの大木が三本並んでいるところにある屋敷です」
「こっからだと豆粒の大きさだなー」
「はい。このとおりしばらく崖の続く地形なので、下に降りるにはあのあたりまで行ってぐるっと迂回して……」
 リナはふむと頷き、ガウリイと視線を交わす。ガウリイも言葉なしに、ただ崖下をちょいと指差した。
「じゃ、あたしたちは先にあの屋敷に行くわね。ガウリイ、ぶん回してみて」
「は?」
 案内人が聞き返す前に、二人は両手を繋いでガウリイがそいやとリナを振り回す。
「ああああぶないっ!」
 軽々とまるで荷物のようにぞんざいに扱っている。その勢いのまま、ガウリイが崖下へリナを放り投げたかのように見えたが──ぽーんと、二人揃って崖から飛び出した。
「落ち──えええっ!?」
 落ちた。
 だが、崖下から吹き上げる強風で、思うよりもゆっくりとした速度で落ちている。
「そうか、呪文があるから……にしても、普通こんな降りかた? 落ちかた? しないよ!!!」

 二人で楽しそうに落ちていったが、たとえ呪文が使えたとしても自分だったらあんなことは絶対にしないねと思いながら、案内人は安全な道を使って遠回りをしたのだった。




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