二人は踊る、されど進まず 2







「これっ!リナさんのために準備しました!」

 アメリアがリナの眼前にしゅびっ! と差し出したのは、床に穴を開けて歩けそうなほどヒールが細く高い、真っ赤な靴であった。

「……なにこれ?」

「派手な靴だな〜」

「出場されるリナさんへ私から応援の贈り物です! 細くて華奢ですが、冬眠から覚めたばっかりの危険なはらぺこクマさんをも倒せるほど頑丈な出来なんですよ♪ ぜひこれ履いて出場してくださいっ!」

 おそらく王室御用達であろう可憐な靴は、旅と戦いばかりのリナには無縁な形状をしていた。同じ頑丈な靴なら、底に仕込みナイフでもされているサバイバルブーツを貰ったほうがまだ嬉しかっただろう。

「……アメリア……あなたの気持ちは嬉しいけど、どーして闘うのにそんな靴を履かなきゃなんないのよ?」

「へ? 何言ってるんですかリナさん〜?
 リナさんこそまさかその格好で出場されるつもりじゃないですよね?」

 互いにいぶかしげな表情を浮かべる。どうも噛みあっていない。

「この格好のどこがおかしいのよ。そりゃーガウリイみたいな鎧もないからただ身軽に見えるかもしれないけど、魔道士としては最強の装備なのよ!」

「そ、その格好じゃ、ちゃんと踊っても外見でマイナスポイントつけられちゃいますぅ!」

「……踊る? さっきから何なのアメリア?
 あたしたちが出るのは血湧き肉踊る武力の祭典! 『武道大会』よね?」

「いえ……紳士淑女がステップ踏んで華麗に踊る美の祭典! 『舞踏大会』ですが」

「あ〜やっぱりその『舞踏』だったのか。
 オレ、昨日からなーんかおかしいと思ってたんだよな」

「………………」

「………………」

 長い沈黙の後、リナは顔色を青くしたアメリアを見詰めてふるふると首を横に振った。

「そんなぁあああ!
 もうエントリーの手続きしてしまいました!」

「棄権よ、棄権っ!」

「ええ〜……出るのやめちゃうんですか……リナさんペアの踊りが見られるの、すごく楽しみにしてたのに……」

「じょーだんじゃないわよっ! 勘違いだったなんて、ああもう……」

 苛立たしげに頭を掻くリナに、ガウリイがのほほんと聞いてくる。

「じゃあそのなんとかドロップってのは諦めるのか?」

「あ、ああーっ! そうだった……惜しい……」

 そういえば本来の目的は出場することではなくその優勝賞品だった。『武道』だったら絶対に負けないのに、とリナは唇を噛む。

「出るだけ出てみればいいじゃないか。
 あと一週間あるんだろ? 練習すればいい」

「あと一週間て、あと一週間『しか』ないのよ?
 ンなこと言ってガウリイは踊れるの!?」

「いちおー昔、ひととおり叩き込まれたぞ。たぶん踊れると思う。
 リナこそどうなんだ?」

「え゛……」

 続く沈黙が、リナがまったく経験のない初心者である、と語っている。
 ふうと溜息をつくガウリイに彼女はむかっ腹を立てた。
 思えば『なんでもできちゃう優等生リナちゃん』として小さい頃から常に、現在はガウリイより優位にあり続けた。こうして彼から失望の溜息をつかれてしまうなんてことが未だかつてあっただろうか。

「やっぱ急には無理だよな。諦めるか……」

「やるわ! やるわよっ!
 ダンスなんて簡単よ! ちょちょいのちょいっの朝飯前よ!
 リナ=インバースに棄権の二文字と二言はないっ!」

 生来の負けん気で高らかに宣言してしまいどうにも引けなくなり、ぐっと握り締めた拳を振り上げるリナの眼前に、アメリアが「どうぞ」と赤いヒールを今度こそ差し出した。













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