二人は踊る、されど進まず 1アメリアは気さくで豪快で庶民的であるから、彼女が王族であるということをつい忘れてしまいがちになるが、こうして王宮の庭が一望できる立派なバルコニー付きの部屋で高級なカップを使い王室御用達の紅茶を飲んでいると、ああやっぱり王女さまなのだなとリナでも思うのである。 しかしだからといっていまさら遠慮する間柄ではないので、普通の女の子同士の、きゃいのきゃいのとたわいもない会話が延々続く。 「その店主から聞いたんだけど――」 「ああ、知ってます! 金物屋の隣にある店ですよね」 ガウリイはだいぶ前から二人の輪に加わることを諦めていて、ほとんど口をはさんでこない。退屈している犬のように大きな欠伸をひとつした。 「んで、行商人の集まる特売市が来週あるんだって! 場所がよくわかんないから連れてってよ、アメリア!」 「いいですよ。面白そうですね〜。 ……あ、そういえば来週は舞踏大会の審査員を頼まれているので、その日以外でしたらご案内できますよ」 「ブドウ大会?」 ポットからティーを器用に注ぎながらガウリイが言う。当然のようにリナのカップにもティーを足したので、躾が行き届いているわねとアメリアは感心した。 「ブドウの名産地はゼフィーリアってきいたけど、セイルーンでもブドウ作ってるのか?」 「もう、バカねガウリイ。食べ物じゃないわ武道大会よ、武道」 「ホント、変な勘違いしないでくださいよガウリイさん」 「すまん……」 ぽりょぽりょと頬を掻きながら、ガウリイは「武道? 舞踏?」と小さく呟く。 「そんな大会が開催されるなんて知らなかったわ。アメリアが審査員ってことはセイルーン王室主催なの?」 「いいえ、違います。ノイシュヴァン家という名家がありまして、そちらが主催です。古くからある由緒正しい大会なんですよ」 「ふぅ〜ん……もしかして優勝したら賞品とか賞金があったりすんの?」 「さすがリナさん、するどいです〜。 出ますよ、すっごい賞品が!」 リナの目がぎらりと光る。アメリアへ身を乗り出した。 「なになに、どんなの!?」 「聞いたら驚きますよ〜。 なぁあんと! 優勝者にはかの貴重な財宝『マナ・ドロップ』が一滴、贈られるのです!」 「……なんだそれ? リナ知ってるか?」 「……な、な、なんですってぇえええ!?」 アメリアの言葉を聞いてぽかんとしていたリナは、ぱちぱちと瞬きを幾度かした後に大声を上げた。 「すごいっ、本当に!? こんなところでマナ・ドロップにお目にかかれるだなんて! よし、ガウリイ出ろ! 出て勝って来い!」 「う、うえぇ!?」 「出場するって……ガウリイさん一人でですか?」 「へ? 一人じゃダメなの?」 「はい……競技は原則ペアですが」 「ペアぁ? じゃああたしも出るわ」 「えっ! リナさんがですか!?」 「何よ。何か問題でもあるの?」 アメリアの驚きぶりにリナは少しばかりむっとする。 しかしリナの本気を知ると、アメリアは手を取って喜び出した。 「いいええ! 問題ありません! この大会でガウリイさんとリナさんのペアが見られるなんてすごいです!」 「何よ、大げさねえ。じゃっエントリーお願いね!」 「まかせてくださいっ!」 意気揚々と胸を張るアメリアに、また明日来るから競技の詳細を教えてね、と告げてリナたちは部屋を去った。 勝手知る王宮の回廊を歩きながら、ガウリイは戸惑った声でリナに聞く。 「なあ、本当に参加していいのか?」 「いいに決まってるじゃない。でもあたしたちが参加したら圧勝なのが主催側にとって問題かもね〜」 お宝さん〜と陽気に歌いながらリナはスキップする。 ガウリイはそんなリナを追いながら「ぶ、武道? 葡萄? ……舞踏?」と呟き、首を傾げた。
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