無礼講のあとで

「う……頭いたぁ……」
 寝る前は楽しくてふわふわな気分だったのに。
 ……今は最悪。
 少し動くだけでずっきーん!と殴られた瞬間のような痛みが響く。
 痛みが和らぐ角度を探し、枕にそっと頭を沈めてあたしは唸る。
 あー……今はこんなんだけど、どうして昨夜は楽しかったんだ……っけ……?
「あ?」
 脳裏には、くすくすとあたしに向かって笑う、間近なガウリイの顔が浮かぶ。
「……あぁ?」
 あたしも照れ笑いを返しながら、彼の頬に触れて、その感触を楽しんで。
「ぁああああ!?」
 あたしの腰を抱えるガウリイの手つきに、いつもとは違う色を感じたり、した。
「~~~~っ!!」
 思い出した衝撃と再び響く頭痛。
 二重のショックにあたしは目を見開いて悶える。

 そうだ、昨夜、酒場で飲みすぎて……ヘンな空気になっちゃったんだ。
 新しくできたばかりという酒場で、そこは布張りのソファが置いてある変わったボックス席がいくつもあった。
 そこここで狭い席に男女ふたりが身を寄せ合い、何かひそひそと話しをして微笑みあってた。

 ガウリイは渋い顔をしたけど、噂の絶品料理が食べられるとあってあたしはどーしてもその店に入りたかったのだ。
 食べたら帰るからとガウリイを説得して窮屈なソファに並んで座り込み、料理を待ちつつお酒も飲んでいるうち……薄暗い照明と周囲の雰囲気に流されて、気分が大きくなってしまったあたしは……なんつーか……セクハラな話題をいろいろとガウリイに振ってしまった気がする。

 咎められて「無礼講だもん」と言い張ったら、「じゃーオレも無礼講していいんだな?」って、触られた。狭い席だからもとからくっついてたんだけど。
 そうなったら普通「やりかえす!」って展開になるわよね。
 ぺたぺた互いに触ってるうちに限度がわかんなくなっていったのは、お酒のせいだと思う。
 二人でむちゃくちゃに触りまくって、それがくすぐったくて心地よくて、笑いがとまらなかった。
 あの時、あたしたちは間違いなく……愉しくて幸せだったのだ。

「はあ……でもどんな顔してガウリイに会えば」
 調子に乗り過ぎたことを後悔してると、唐突にドアが開かれる。
「おー、起きたか」
「ガウリイっ」
 まだ心の準備は何もできてないんだけどー!?
「なっなにっ、急に!」
「うんうん唸ってる声が聞こえたからさ、二日酔いの薬を下からもらって来たぜー」
 朗らかに言って、ガウリイが水と丸薬をベッドサイドに置いた。
「あ、あ、ありがと……」
 恥ずかしさに目が回りそう。視界もくらくらするけど、あれ、これは二日酔いだからだっけ?
 毛布を頭まで被ってひたすらじたばたするあたしに、ガウリイが「どうした?」と声をかけてくる。
「いや、その、昨日は……」
「あー、気付いたら部屋で寝てたんだけど、オレたちどうやって帰ってきたんだろうな?」
「って覚えてないんかい!!」
 ううう、自分の声すら頭に響いて痛いったら。

 毛布から顔を出して、おそるおそるきいてみる。
「昨日の……どこまで覚えてる?」
「へ? あの狭い席の店のことか? ……狭すぎてイラつくリナに足を踏まれたところあたりかな」

 それめっちゃ序盤じゃないの……。
 と、いうことはあたしたちの酔っ払っての痴態は覚えてない、ってこと?
「なあんだ……」
「どうかしたか?」
「ううん、なんでも」

 あたしはもそもそと起き上がって、二日酔いの薬を飲んだ。
 ふうと息をついて再び横になる。そこにガウリイが毛布をかけてくれた。
「メシはどうする?」
「昼はいらない……」
 そこであたしはふと思い出す。
「あ、そういえば、あの店の絶品メニュー……結局食べたんだっけ?」
「食べただろ、制覇するって全部」
「ええ、そうだっけ? ……あんた覚えてるの?」
 寝込むあたしに振り返り、ガウリイは下手くそなウインクをして部屋を出ていった。

■ 終 ■
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