アメニティ

※ファンリビネタ

- 前提 -
もどかしいすれ違いがあったりしたものの、紆余曲折の末ガウリイはようやく自分の世界のリナとの再会を果たし、世界を再構築[リビルド]しようとする人々の集う活動拠点・オリキュレールに案内されたのだった――

  *****

 まずブリッジに赴き、女性艦長に挨拶をした。「情報交換をしましょう」と言われたが、ガウリイが世界崩壊について知ることなぞない。
 よくわからん、と曖昧なことを言っていたら、すかさずリナにスリッパではたかれる。
 ああ、懐かしいこの痛み。
「すみません、彼にはあたしから説明しておきます」
「ふふ、あなたたちは役割分担がはっきりしているんだね」

 リナとはぐれて、こんな長い期間を一人で過ごすのは久々だった。
 しかしガウリイは気付いた――実は、一人でもわりと生きていけるのだと。
 もちろん『リナと再会する』ことを原動力として日々を過ごしてたわけだが、手足のもげたような不自由さを感じることはなかった。でもこうして再会して二人でいると、やっと本来の自分に戻れた気がした。そして特別に何かをしていなくても、リナがいれば世界が色鮮やかに光り出し、どこからともなく高ぶる気持ちが湧いてくるのだった。
 だから、役割分担とは少し違う。
 二人でこうしていることが、呼吸するようにただ『自然』なだけだ。

「じゃあ、艦内の案内もリナにまかせるよ」
「わかったわ」
 ブリッジから出る前に、ガウリイはテッサから大きめの手提げ袋を渡された。
「……ご飯?」
「いいえ、全員に配給される生活必需品です。これもリナさんから説明してもらうといいですよ」
 必要なものは自分のナップザックにひととおり揃っているが、ここでの生活がいつまで続くかわからないし、持っていて損する物でもないだろう。ガウリイはテッサに礼を言った。
「さ、ガウリイの部屋に案内してあげるわ」
 リナにこっちよと合図され、ブリッジをあとにする――

「へえ、ここがオレの部屋?」
「そうよ。こじんまりとしてるけど、いろーんなものが揃ってるの! 清潔だし室内に水場も揃ってるし、とても快適よ」
「この船……壁とか床とか、よくわからん素材で作られてるけど、ベッドはいつも通りの形で安心するなあ」
 ベッドにぼすんと座って硬さを確認する。柔らかすぎず、硬すぎず、よく眠れそうないい出来だ。
 座ったついでに、ガウリイはテッサから渡された物資を袋から取り出して確認しはじめた。
「……なんだこれ。ぜんぜんわからんぞ?」
「それはシャンプーとリンスとボディーシャンプー」
「どれも同じにみえる」
「……あとであたしが目印をつけてあげるわ」
「これは?」
「圧縮されたタオルよ。水に濡らしたら膨らむんですって。それはカミソリ」
「えっと、これはパジャマだな。……これは?」
「それは下着よ。洗濯物を出す場所も決まってるから、後で案内するわね。足りない衣類は言えばくれるそうよ」
「へえ……これは?」
 次々と見慣れぬ物をチェックし、最後に四角で薄っぺらいものに気付いた。
 四角いが中は丸い円状に盛り上がっていて、手のひらサイズのそれが、二つ繋がっている。
 いったい何に使うものだろうか?
「そっ……」
 リナがなぜか頬を赤らめる。
「どうした?」
「それは……その……」
 語尾が小さくて聞き取れない。なにかもごもご言うリナをガウリイは見詰めた。
「なんだ?」
「避妊具、よ」
「……なんだそれ?」
「避妊に! つかう! ものなのっ!!」
 顔を真っ赤にしながら一言を大きい声で告げる。
「ひにん……?」
 言われても、いつ、どうやって使う物なのかさっぱり想像がつかない。
「ああもう察しが悪いわね! この船、若い男女が多いでしょ!? 無計画な妊娠を防ぐために配られてるの! せせせセックスのときにね、あの、その……」
「……ああ!」
 なんとなくわかった。どうやら、気まずいことを質問してしまったらしい。
「この船、惚れた腫れた好いた嫌いだって話題が好きな人もいたりするから……こういうのも必要みたい。それどころじゃないでしょっつーの。……いや、こんな状況だから逆に必要だったり? ん、ま、いやあ、とにかく、のちのち困らないための必需品らしいから! あたしは別にいらないけどっ!」
「へ、へえ……これ、薬ってわけじゃないんだよな?」
「らしい、わ」
「『する』ときに使う……どっちがだ?」
「どっちって……」
「その……男と女で」
「うう……お、男がつける……」
 つける、ということは、局部に装着するのだろう。具体的にはわからないが。
「なあ、なんでこれ二個繋がってるんだ? もしかしてこの世界の人間は二本生えてんのか?」
「違うわっ! ばか! これは使い捨てなの! 消耗品だけど、とりあえず二個配ってるだけなの!」
「そ、そうか……」
 文明が違うとここまでアメニティも異なる物なのか。
 ガウリイは未知の品物をまじまじと観察する。だが、使い方はやはりさっぱりわからない。

「……これ、どうやって使うんだろうな? お前さん知ってるか?」
 それはさりげない、ふと口にしただけの他意ない疑問だった。
「ん、知ってる……ゼルに教えてもらったの」
 ついと視線を逸らして、頬を赤らめながらリナが言った。
 ガウリイは硬直した。
 それと同時に自分の光の剣を思わず意識する。
 ――これで合成獣は斬れるだろうか。うん、斬れる。
 ――いったいいつの間に二人は進展した?
 ――自分がリナの側にいない間に、二人になにがあった?

「だからね、ガウリイ」
 リナの声に意識を引き戻される。
 真剣な表情のリナは視線を逸らさず、真正面からガウリイを見ていた。
「ガウリイも――ゼルに教えてもらうといいわ」
「え゛っ」
 ゼルに? どうやって? 実地で? 手取り足取り?
 静かに混乱しているガウリイにリナは続ける。
「あたしもゼルに説明されたけど、やっぱあたしは男じゃないからちゃんと理解できなかったのよね。男同士の説明なら、ガウリイもしっかりわかっていいと思うわ。どうやら、これの使い方ってここの常識らしいし」
「あ、ああ……説明……説明ね、うん」
「どうかした?」
「なんでもない」
 気を取り直して、いつもの笑みを浮かべた。

  *****

 ゼルガディスの部屋へリナに案内してもらったついでに、ガウリイは例のブツの使い方をさりげなく質問してみたのだが――ゼルガディスは、明らかに不満顔になったのだった。
「何故、どいつもこいつも俺に『こんどーむ』の使い方を聞きに来るんだっ!? ここには俺よりも詳しい連中がいるはずなのに! 何故! 俺なんだっ!?」
 リナとガウリイは顔を見合わせた。
「えーと……聞きやすそうだからじゃないか?」
「なんだかんだで丁寧に教えてくれそうだし」
「そんな理由でか!? なにもわかってないエンデに説明するのがどれだけ大変だったか想像つくか!?」
 よほど鬱憤が溜まっていたらしい。ゼルガディスは手の中の避妊具をくしゃりと握り締める。
「なんか……大変だな、ゼルも」
 上辺のねぎらいをしながら、ガウリイはゼルガディスの手の避妊具を見て首を傾げた。
「あれ? ゼルのとオレの、微妙に違わないか?」
「なんだと?」
「ええっ?」
 ゼルガディスが手を広げる。ガウリイがポケットから取り出した物と比べると――
「包みの色が違うわ」
「書かれてる字も違うみたいだ。ゼル、読めるか?」
「いいや……わからん」
「もしかして」
 リナがひらめく。
「『ぶれいばー』とか『いぐないと』とかで配られる種類が違うとか」
「いいや……俺は何人かのコレを見たが、皆俺と同じ物だったぞ」
「あっわかったぞ」
 色の違う二つを重ねて比べていたガウリイが声を上げた。
「円の大きさが違うみたいだ」
「ほんとだわ。つまり、サイズ?」
 室内が静まり返る。
 自分で発言しておきながらリナは赤くなった顔を隠すように俯き、ゼルガディスは気まずそうに咳払いをした。
「なあゼル……これって誰が配る種類決めてるんだろうな?」
「知るかっ」
「あんた、ここの人からどーいう認識されてんのよ……」
「さあ……」
 認識もなにも、ここに来たばかりだというのに。先入観で配るものを決められているのだろうか。
「オレひとりだけ種類が違うってことか? それって誰にもあげられないしもらえないし、不便じゃないか?」
「これ使い捨てだから! 貸し借りするもんじゃないのっ」
「使い捨てなあ……つうか、オレだけこの種類ってことは、使った回数がバレバレにならないか?」
「えっガウリイ使うつもりなの!?」
「……いや……今のところ予定はないが」
 ゼルガディスが小さく肩を揺らすのが見えた。笑いを堪えているらしい。
「じゃあ別にいいじゃない」
 ――よくない。
 横目にリナを見ながら、ガウリイは再びポケットにしまったのだった。

■ おわり ■



未知の文明にふれたら興味津々だろうなーとか、想像すると楽しい
Page Top